条文テーマ: 定款・目的条項(会社法第27条第1号)
対象: 株式会社・合同会社の設立準備中の方、将来の事業拡大や許認可取得を考えている方
1. 事業目的の基本ルールと現代の基準
会社は、定款に定めた「目的」の範囲内でのみ権利義務の主体となることができます(権利能力の制限)。
かつては「適法性」「営利性」「明確性」「具体性」が厳格に審査されていましたが、2006年の新会社法施行後は「具体性」の審査基準が廃止され、かなり柔軟な表現が認められるようになりました。
【定款の文言例】
(目的)
第2条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。
(1)ウェブサイト、ウェブコンテンツ及びデジタルコンテンツの企画、制作、開発及び運営
(2)インターネットを利用した各種情報提供サービス及び通信販売業務
(3)広告代理店業務及びマーケティングリサーチ業務
(4)経営コンサルティング業務
(5)飲食店の経営及び食料品の企画、製造、販売
(6)前各号に附帯関連する一切の事業
2. 【選択基準】事業目的は何個書くのが正解?「絞る」vs「増やす」
パターンA:1〜3個程度に「絞る」メリット・デメリット
- メリット:
- 何をやっている会社なのかが対外的に明確(「Web専門の会社だな」と一目でわかる)。
- 銀行口座開設の際、事業の実態が疑われにくい。
- デメリット:
- 新しいビジネスを始めるときに、法務局で「目的追加の変更登記(登録免許税3万円+司法書士報酬)」が必要になる。
パターンB:5〜10個程度「将来やる事業も含めて幅広く書く」(★推奨)
実務上、もっともバランスが良いのは「現在行うメイン事業(2〜3個)」+「2〜3年以内に着手する可能性がある関連事業(3〜5個)」= 合計5〜10個程度にまとめることです。
なぜ20個も30個も書くのはダメなのか?
「何でもできる方が便利だから」と20個以上書き連ね、IT、不動産、土木工事、芸能プロダクション、農業、宇宙開発…と脈絡のない目的を並べると、
- 銀行口座の開設審査で「ペーパーカンパニー(マネーロンダリング目的の休眠会社)」と疑われ、口座開設を拒絶されるリスクが高くなります。
- 法人向けクレジットカードの審査や取引先の信用調査でもマイナス評価につながります。
3. 超重要!「許認可」が必要な業種は一言一句に注意
将来、特定の事業を始めるために官公庁から「許認可・届出・免許」を取得する必要がある場合、定款の目的に決まった文言が入っていないと申請を受理してもらえません。
| 業種・許認可 | 定款の目的に必要な記載キーワード例 | 根拠・所轄 |
|---|---|---|
| 古物商(中古品売買・リユース・せどり) | 古物営業法に基づく古物商 または 古物の売買 | 警察署(公安委員会) |
| 宅建業(不動産仲介・売買) | 宅地建物取引業 または 不動産の売買、仲介、斡旋及び管理 | 都道府県知事・国交省 |
| 労働者派遣業 | 労働者派遣事業(※「労働者派遣事業法に基づく…」でも可) | 厚生労働省(労働局) |
| 飲食店・カフェ | 飲食店の経営 または 飲食料品の製造及び販売 | 保健所 |
| 旅行業 | 旅行業法に基づく旅行業 | 観光庁・都道府県 |
| 酒類販売業(お酒の通信販売など) | 酒類の販売 または 酒類の輸出入及び通信販売 | 税務署 |
「後から始めればいいや」と書かずに会社を作り、いざ許認可を取ろうとして「定款に記載がないので変更して登記し直してください」と役所で言われ、余計な登録免許税(3万円)を払う起業家が非常に多いです!可能性がある許認可は最初から入れておきましょう。
4. 魔法の一行「前各号に附帯関連する一切の事業」の効力と限界
定款の事業目的の最後に、必ずと言っていいほど記載されるのがこの文言です。
(6)前各号に附帯関連する一切の事業
この文言の意味とメリット
目的として掲げた事業に直接・間接に関連する業務であれば、定款に個別に記載していなくても適法に行うことができるようになります。
(例:Webサイト制作会社が、顧客のためにサーバーの代理契約をしたり、サイト用写真の撮影を請け負うなど)
限界:許認可業種には通用しない!
「前各号に附帯関連する〜」があるからといって、許認可が必要な業種(宅建業や古物商、派遣業など)を無免許・無記載で営むことはできません。役所の申請書類としては個別の明記が絶対条件です。
5. 合同会社(LLC)の場合はどうなる?
合同会社の場合も、事業目的の書き方や許認可の要件は株式会社とまったく同じです。
唯一の違い:目的変更の「手続きとコスト」
将来、新しい事業目的を追加したくなったときの手続きに違いがあります。
- 株式会社:
株主総会を招集し、「特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)」を経て定款変更議事録を作成し、登記申請(登録免許税3万円)。 - 合同会社:
原則として「総社員の同意(出資者全員の合意)」で定款変更書を作成し、登記申請(登録免許税3万円)。
※登録免許税の3万円はどちらも同額ですが、合同会社なら社員全員の書面1枚でスピーディーに決議できます。